ある暗い過去を背負い、小さなどらやき店で雇われ店長をしている主人公。
ある日、そこのアルバイト募集の張り紙を見て、ひとりの老婦人がアルバイトに志願してくる。
何度断っても通ってくる老婦人が置いていったあんこを一口食べた主人公はその味に衝撃を受け、
彼女にどらやきのあん作りを任せるようになる・・・

樹木希林さんが演じる老婦人の純粋さ、
彼女に出会い、頑なだった心が外の世界に向かって柔らかく開かれて行く周りの人々の姿に心を打たれる映画でした。

あることがきっかけで青春を奪われた老婦人は、ある意味ずっと夢を追う「少女」だったのだと思います。
そして、遠い昔に奪われた青春、遠い昔に奪われた夢を叶えるための場所を探しているときに、
どらやき店の店長に出会う。

映画の登場人物は、ほとんど皆、それぞれが大変な背景を背負っていて、自分が一番不幸せだと思っている感じ。
そこから抜け出そうとしても抜け出せず、人生を諦めています。

でも老婦人に出会ったことで、自分自身を見つめ直し、
自分が置かれた場所で、自分ができるところからやり直していこうと決意します。

大人になって、いろんな人を知り、いろんな世界を見せてもらったり、話を聞かせてもらったりして、
世の中にはいろんな常識があり、いろんな人がいて、
それぞれが自分は大変なんだ、と思いながら生きていることを少し、知りました。
でも、自分が自分の人生を大変だと思うのと同じくらい、
ほかの人もその人自身の人生を大変だと思いながら生きています。

しかし、自分だけが不幸だと思っている人はしばしば、他の人が嘆いていることに対して、かえってどん感で無知になることもあります。
劇中でも、自分だけの人生に躍起になり、また人の痛みにどん感になってしまっているがために、周りを傷つけてしまうシーンがいくつかあります。
そしてそれは、物語のテーマともなっているある問題が、かつて人びとの無知によって捻じ曲げられた道のりを繰り返すことにつながっていくのです。

人に見られたくない、恥と思うようなものを隠す、そんなやり方が、今の日本にもちらちら見えていますが、この映画の老婦人もまた、そんな日本にやり方によって人生を奪われた当事者なのでした。
でも彼女は、そこで自分だけが不幸だと思わず、彼女が持ち得たかすかな希望を大切にしながら、出会った人びとを大切にしながら、生きることを選択しました。

彼女の姿は、確かに世の中には、本当に不幸せな人生に終わってしまう人もいるけれど、
少なくとも、自分で腹をくくって、決意して踏み出せば、人生を良く変えていける人もたくさんいるということを見せてくれていると感じました。

この映画を見て、自分が本当にやりたいことはなにか、それに向かって踏み出したい、という気持ちになりました。